医療事故情報

公益財団法人日本医療機能評価機構
医療事故情報収集等事業

事例IDA94E5A6AD0B2B9BD6
報告年発生曜日曜日区分発生時間帯
2018火曜日平日14:00〜15:59
医療の実施の有無事故の治療の程度事故の程度
実施あり濃厚な治療不明 インシデント発生翌日に現病悪化し患者が死亡したため
事故の概要発生場面 事故の内容
薬剤その他与薬に関する場面 CHDF回路内への持続注入過剰投与
発生場所(複数回答可)関連診療科(複数回答可)患者の数直前の患者の状態(複数回答可)
ICU
循環器内科
入院
1人
70歳代 (男性)
意識障害
床上安静
薬剤の影響下
疾患名急性心筋梗塞
急性心不全
維持透析を必要とする慢性腎不全
糖尿病
当事者当事者職種職種経験当事者部署配属期間直前1週間の
当直・夜勤回数
勤務形態直前1週間
の勤務時間
専門医・認定医及びその他の
医療従事者の専門・認定資格
1人 医師23年6ヶ月20年6ヶ月0回交替勤務なし60内科専門医、循環器専門医
2人 臨床工学技士15年7ヶ月10年3ヶ月0回交替勤務なし32透析技術認定士 内視鏡技師
特に報告を求める事例発見者薬剤・製剤の種類
本事例は選択肢には該当しない他職種者抗凝固剤
当事者以外の関連職種(複数回答可)
看護師
関連医薬品1
【販売名】 ヘパリンNa注1万単位/10mL
【製造販売業者】 持田製薬
事故調査委員会設置の有無発生要因(複数回答可)
既設の医療安全に関する委員会等で対応確認を怠った
観察を怠った
事例概要
【実施した医療行為の目的】
本症例は維持透析を必要とする慢性腎不全が基礎疾患としてあり、他院で繰り返し冠動脈インターベンション(PCI)治療が施行されていた。急性冠症候群を発症し当院に搬送され、前下行枝に対してPCIを施行した。その後経過良好であったが、PCI後4日目に再発作を発症し、右冠動脈の残存狭窄に対して再度PCIを施行中に血行動態が破綻し、意識障害が出現したため気管挿管を行い人工呼吸器管理を開始してPCPSによる補助循環が開始された。同時にCHDFによる透析も開始した。高度の肺水腫、肺胞出血、DIC状態の合併を伴い、必要に応じて赤血球輸血、凝固因子輸血、血小板輸血を施行した。また、胸部X-pでは両肺に広範な浸潤影を認め、ARDSの併発も疑われた。しかしながら心機能は徐々に改善したため、挿入してから6日後に心臓血管外科に依頼してPCPS送血管・脱血管を抜去し、PCPSより離脱。抜去後止血は良好であり、明らかな血腫形成・創部出血は認められなかった。その後朝から一時中止していたCHDFを再開することにした。
【事故の内容】
朝の段階でCHDF回路が血栓により目詰まりし、12時間程度しか維持ができず、DICの関与が疑われた。この日はPCPS離脱が予定されていたので、CHDFを一時中断し、PCPS離脱後よりCHDFを再開することにした。15時過ぎCHDF再開時に浄化部臨床工学技師より回路内の血栓形成傾向に対してCHDF回路の側管注射剤についてフサンからヘパリンへ変更の提案あり。虚血グループ医師である報告者が了承し、CHDF回路内にヘパリン500単位/hで投与開始することになった。浄化部臨床工学技師より担当看護師に投与ヘパリンシリンジ組成(ヘパリン原液50ml)の口頭指示が出された。その際、医師は投与ヘパリンシリンジの組成について直接確認せず、技師とは時間当たりのヘパリン投与量(ヘパリン500単位/hなど)で会話を行い、ヘパリンシリンジ内の組成が原液であることに気がつかなかった。担当看護師とその同僚も組成について技師に再度確認したが、技師よりヘパリン原液と再度指示されたので、指示された組成で開始した。技師は自らが出したヘパリン組成が1000単位/mlであるのに、その10分の1の100単位/mlであると思い違いをしていた。その1時間後、ACTを確認するもhigh表示であったため、医師は中心静脈から投与されていたヘパリン(10000単位+生食40ml 3.5ml/h)を中止した。さらに1時間後もACT highであったので、医師はCHDFへのヘパリン原液の持続投与量を減量する(5ml/hから4ml/h)が、それ以上の減量はCHDF回路が閉塞する可能性があるとの上申が技師よりあったため4ml/hで継続することを決めた。PCPS抜去部からの出血を観察し、各勤務ごとのACTフォローを指示してACTについては経過観察する方針とした。その後、虚血グループの別の医師により電子カルテにおいて看護師が技師より出された口頭指示を代行入力されていたが、そのヘパリン組成の不備に気がつかず、電子カルテ上において承認してしまった。その後、ACT highは持続したものの創部出血等なく貧血の進展も確認されなかったが、翌日5時30分頃に急に徐脈が出現し血圧が低下した。当直医師により心肺蘇生が行われるも心拍再開せず、その後死亡確認した。
【事故の背景要因の概要】
持続透析装置であるCHDFの回路内血栓性閉塞予防のために投与されたヘパリンの投与組成について技師から出された口頭指示を医師が実際に確認せず、承認してしまった。投与ヘパリン量について時間当たりの単位量で技師と会話を行ったため、シリンジ内のヘパリン濃度が医師・技師が想定しているよりも10倍高濃度であることに気がつかなかった。その結果、高濃度のヘパリンが約12時間にわたって過剰投与された。技師の思い違いによる高濃度のヘパリン組成について指示を受けた看護師は不自然に感じ、実際に口頭指示した技師に確認するも、担当医、ICUを管理する麻酔科医師らには確認しなかった。さらに、循環器内科医師もACTが高値を示していたが、DIC合併の影響の関与などを疑い、出血のコントロールがついていたので、原因の究明が徹底されなかったことが考えられる。
【改善策】
インシデント対応委員会を開催し、関係者において情報共有を行い、今後の改善策を話し合った。まず、本事例について循環器内科医局会、ICU連絡会議等において報告し、医師による電子カルテへの注射薬直接指示入力を徹底することと、やむを得ず口頭指示を追認する場合にも十分に注意することを改めて確認してもらうことにした。また、ICUにて使用するヘパリンの組成濃度を統一することを念頭に検討し、ICUおよび救急救命センターで血液浄化療法をヘパリンを用いて実施する場合は、血液浄化療法部と同様にヘパリンプレフィルドシリンジ製剤を用いる方針とし、準備を進めている。