医療事故情報

公益財団法人日本医療機能評価機構
医療事故情報収集等事業

事例IDA6EFD85FDA9FA4C20
報告年発生曜日曜日区分発生時間帯
2020月曜日休日・祝日18:00〜19:59
医療の実施の有無事故の治療の程度事故の程度
実施あり濃厚な治療障害残存の可能性なし
事故の概要発生場面 事故の内容
薬剤与薬準備過剰投与
発生場所(複数回答可)関連診療科(複数回答可)患者の数直前の患者の状態(複数回答可)
病室
内科
入院
1人
60歳代 (男性)
疾患名2型糖尿病
膵頭部癌
不眠症
当事者当事者職種職種経験当事者部署配属期間直前1週間の
当直・夜勤回数
勤務形態直前1週間
の勤務時間
専門医・認定医及びその他の
医療従事者の専門・認定資格
1人 看護師0年6ヶ月0年6ヶ月0回2交替40
特に報告を求める事例発見者薬剤・製剤の種類
本事例は選択肢には該当しない当事者本人抗糖尿病薬
当事者以外の関連職種(複数回答可)

関連医薬品1
【販売名】 ヒューマリンR注 100単位/mL(10mL)
【製造販売業者】 日本イーライリリー(株)
事故調査委員会設置の有無発生要因(複数回答可)
既設の医療安全に関する委員会等で対応確認を怠った
知識が不足していた
事例概要
【実施した医療行為の目的】
インスリン製剤(ヒューマリンR注)の投与
【事故の内容】
患者は、膵癌に対する化学療法目的で入院となった。入院後、化学療法を開始し1回目は予定通り施行されたが、2回目の投与の前に発熱し、逆行性胆管炎が疑われた。患者は、嘔吐のため朝から絶食となり、糖尿病の既往があったため、昼過ぎから輸液内にインスリンを混合した持続点滴が開始された。当日準夜勤務で担当したA看護師は、点滴更新のため、輸液を準備した。その際、ヒューマリンR注バイアルから10mLシリンジでバイアルが空になるまで吸い上げ、グルアセト35注500mLへ混合した。A看護師は、IMIS mobile(患者認証用端末)で患者のリストバンドと注射ラベルを認証確認し、流量を84mL/Hから83mL/Hに変更して、輸液を開始した。
A看護師は、次に更新する点滴の薬剤を準備する際に、先程ヒューマリンR注バイアルを使い切っており、新しいバイアルがなかったためB看護師に相談した。B看護師がA看護師に前回の輸液内容を確認すると、ヒューマリンR注5単位を混合するところ、約1000単位混合し投与していたことが判明し、直ちに輸液を中止した。ヒューマリンR注は合計 約500単位が投与されていた。患者は、血糖値が29mg/dLまで低下し、血糖コントロール目的でICUに入室した。
【事故の背景要因の概要】
・当該病棟では、点滴内にインスリン製剤を混合し使用する機会はほとんどなかったため、A看護師は、ヒューマリンR注のバイアルを使用する事が初めてであった。初めてであったが、他のスタッフのフォローはなくA看護師は一人で準備と投与を行った。
・ヒューマリンR注のバイアルには「インスリン専用シリンジを使用する注意喚起のラベル」を付帯することを院内のルールとして取り決めていたが、ラベルが付帯されていなかったため、A看護師はインスリン専用シリンジを使用することに気がつかなかった。
・当該病棟では、バイアル製剤(ヒューマリンR以外)を全量使用する機会が多いため、A看護師は注射指示書に記載されている施用量の確認をしていなかった。
・A看護師は、インスリン専用シリンジについての研修を受けていたが、インスリン専用シリンジは患者に皮下注射をする際のみに使用するものだと理解していたため、点滴内に混合する際に10mLシリンジを使用した。
・A看護師は経験年数1年目であった。インスリン製剤は注意が必要な薬剤という認識はあったが、ヒューマリンRがインスリン製剤であることの認識はなかった。そのため、通常のシリンジで10mL吸い上げた。
・新人教育については、先輩看護師がチェックするシステムをとっており、新人看護師が経験を積み先輩看護師のチェックを合格すれば一人で処置ができるようになっているが、そのチェック体制に問題があった可能性が高い。
・夜勤リーダー看護師は、A看護師が初めての経験であることを確認していなかった。
・インスリンのバイアルには、マイショット(インスリン専用シリンジ)を使用する注意喚起のラベルを装着するルールになっていたが、ラベルは装着されていなかった。
・夜勤リーダー看護師は、インスリンのバイアルにマイショットを使用する注意喚起のラベルがついていない事に気付いていたが、そのままにした。
・ヒューマリンR注は当該患者に処方されたものであった。
・ヒューマリンR注のバイアルは、病棟冷蔵庫内に置かれていた。
・インスリン専用シリンジは、点滴作成台の引き出しの中に置かれていた。
【改善策】
・短期的対応
1)処方入力から調剤時の手順、病棟での保管方法、混合時の手順を明文化する。
2)マイショットカードチェック表の見直しを行った。旧チェック表は、チェックする内容が明確にされていなかったため、チェック内容、チェック時間を設定した。また、サインは日々のチェック実施者のみであったが、部署管理者および部署担当薬剤師も日々のチェック状況の確認を週1回実施することになった。
<旧チェック表の記載内容>1.インスリン(ノボリンR)のバイアルにマイショットを使用して下さい。という薬剤から上がってくるラミネートされた札が(開封前)箱か(開封後)バイアルにゴムで縛られているか確認して下さい。2.一日一回日勤でチェックして下さい。3.冷蔵庫の温度確認時にチェックして下さい。4.最終責任者は日勤リーダー。5.チェック用紙は保存の必要性はありません。6.もし札が縛られてない時は、病棟で再周知して下さい。
<新チェック表の記載内容>インスリン保管(1.インスリン保管の有・無、2.薬剤専用冷蔵庫に保管している、3.冷蔵庫内には、インスリン専用保管場所及び専用容器がある、4.インスリン専用保管容器には、ハイリスク薬シールが貼付されている、5.インスリンの専用保管容器には、赤字で劇 インスリン製剤と明示している、6.未使用及び使用中のインスリンには、マイショットカードを付帯している、7.使用中のインスリンには汎用ラベルを用いて、患者氏名・IDが貼付され、開封日が記載されている)、部署の予備マイショットカードの保管(冷蔵庫本体の専用保管場所に配置している)、インスリン専用シリンジの保管(冷蔵庫本体の専用保管場所に配置している)
3)注射指示書の表記を、「ヒューマリンR注100単位/mL(10mL)」から「ヒューマリンR注100単位/mL(10mL/V)」に変更する。
4)ハイリスク薬の見直しについて検討する。
・中期的対応
1)インスリン指示方法が統一されていないため、医師指示書を院内で統一する。
・長期的対応
1)医師・看護師への教育。
2)安全管理のためのダブルチェックの見直し。