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医療事故情報
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公益財団法人日本医療機能評価機構
医療事故情報収集等事業
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報告年 | 発生曜日 | 曜日区分 | 発生時間帯 |
2010 | 月曜日 | 平日 | 6:00〜7:59 |
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医療の実施の有無 | 事故の治療の程度 | 事故の程度 |
実施あり | 濃厚な治療 | 障害残存の可能性がある(高い) |
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事故の概要 | 発生場面 |
事故の内容
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薬剤 | 静脈注射 | 過剰投与 |
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発生場所(複数回答可) | 関連診療科(複数回答可) | 患者の数 | 直前の患者の状態(複数回答可) |
病室
| 耳鼻咽喉科
| 入院
1人
70歳代
(男性)
| 薬剤の影響下
その他特記する心身状態あり 術後4日、譫妄状態
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当事者 | 当事者職種 | 職種経験 | 当事者部署配属期間 | 直前1週間の
当直・夜勤回数 | 勤務形態 | 直前1週間
の勤務時間 | 専門医・認定医及びその他の
医療従事者の専門・認定資格 |
1人
| 医師 | 9年2ヶ月 | 0年2ヶ月 | 2回 | その他 日直、当直あり | 70 | 耳鼻咽喉科 |
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特に報告を求める事例 | 発見者 | 薬剤・製剤の種類 |
本事例は選択肢には該当しない | 他職種者 | その他 向精神薬 |
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関連医薬品1 |
【販売名】 ロヒプノール静注用2mg
【製造販売業者】 中外
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事故調査委員会設置の有無 | 発生要因(複数回答可) |
既設の医療安全に関する委員会等で対応 | その他 想定外の咽頭浮腫の発生
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事例概要 |
【実施した医療行為の目的】
夜間不眠、譫妄、不穏が発生し、乱暴行為もあったため、投薬による鎮静を図った。
【事故の内容】
頸部転移癌に対し、全身麻酔下に両頸部郭清、両側耳下腺腫瘍切除術を施行した。本手術のため入院以前はロヒプノール(2mg)3錠を眠前に常用していた(患者申告)。術後1日目は、夜間ロヒプノール(2mg)を1錠内服し睡眠は良好であった。術後2日目、夜間譫妄(大声で叫ぶ、処置室で寝る)があり、転倒して頭部を打った。セレネース5mg div行うも効果なし。SpO2コードを切断し不明瞭発言あり。術後3日目、日中は落ち着いていたが夜間譫妄あり。術後4日目、日中に不眠時指示をアタラックスP 1A div、不穏時指示をセレネース5mg divからリスパダール1mgへ変更。夜間、アタラックスP1A使用するも入眠せず、軽度不穏状態であったためリスパダール1mg使用。しかし効果なく不穏・興奮状態が続いた。術後5日目深夜、看護師をたたくなど不穏状態続くため当直医call。アタラックスP、リスパダールが無効であったこと、普段はロヒプノール6mgを常用していたことから、当直医の判断によりロヒプノール1mg div(10分)施行し、入眠。再度の不穏時に再投与可(眠れば中止)と指示(ロヒプノール4mgを生食100mlに希釈して使用)。約2時間後、目を覚まし動こうとしたため看護師判断にてロヒプノール約0.5mg div追加。その1時間後、不穏再度出現し、看護師を殴る蹴るなど興奮状態。当直医報告し3人がかりで押さえてロヒプノール1.5mg追加投与し、入眠。比較的短時間での覚醒と再投与の困難性を鑑みて、少量の持続投与が望ましいと考え、25ml(1mg)/h以下の量で、朝までの持続投与を指示。この時点で舌根沈下を認め、仰臥位ではSpO2低下を認めたが、側臥位にすれば狭窄音は聞こえなかったため、側臥位にした。以降は安定していたため、指示よりも少ない量で維持されていた。明け方、1本目の4mg/100mlの薬液を使い切ったため、2本目に更新。その後点滴中止。2本目の点滴残量はほぼ100mlであったとのこと(推定総投与量は4mg強)。その後少し時間を置いて、呼吸停止となった。
【事故の背景要因の概要】
今回の事例の直接原因の候補として、A)頸部手術による気道浮腫、B)ロヒプノール投与による舌根沈下が考えられる。まず各々が単独原因となり得るかを考察してみると以下の通りとなる。
1)Aが単独原因であった場合
窒息に陥るような高度の術後気道浮腫をきたす場合は、通常術当日あるいは翌日までに著明な気道浮腫を生じるが、本事例で事例発生当日の2日前に施行した咽頭ファイバーにて観察した時点では、咽頭を含め気道浮腫は認めておらず、また当日の不穏・興奮時においても本人に呼吸苦の自覚や訴えもなかったことから、単独で窒息の原因となるような高度の気道浮腫が存在していたとは考えにくい。
2)Bが単独原因であった場合
舌根沈下のみが原因であれば、経験豊富な救急当直医がアンビューバックでの換気が全く出来ないということは考えにくい。また事例発生時に咽頭ファイバーで観察された咽頭浮腫の説明がつかない。
以上のことからA、Bが単独要因として事例発生に至ったとは考えにくく、複合的に発生に関与したものと思われる。さらにわずか3分で気道閉塞となり換気がまったくできない状態に陥ったことから、A+Bに加えて痰による気道閉塞などの偶発的な事象が重なり、発生に至ったものと推察される。
【改善策】
今回のように、狭窄音が発生することもなく気道閉塞が発生してしまうような想定外の事態の際には、改善策はない。
咽頭浮腫が想定される術式であり、なおかつ不穏となりそうな患者である場合にはあらかじめ気管切開術を行っておくことにも一考の余地はあるが、そのような予測をすること自体が難しく、良い改善策とは言い難い。
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